「家庭内電力線をネットワーク化するPLCアダプタ」等と、売っている方はバラ色の謳い文句しか書いていないけれど、実はこいつは、HF帯(2-30MHz)にノイズをまき散らす、とんでもないキカイなんですね。
いくら小電力とはいえ、広帯域のパルス信号、外から見ればパルスノイズを「裸線アンテナ」に乗せるわけですから、同一周波数帯を使用している周囲には、影響大な訳です。

今の時代、短波帯は重要な商用無線業務には使われなくなっていますから、短波放送受信愛好者、そして私のような海外との交信を楽しむアマチュア無線家、電波天体観測者など、ノイズレベルぎりぎり、あるいはノイズレベル以下の信号を、しかも数年に一度しか巡ってこないようなチャンス、タイミングを何とかとらえようとして、日夜耳を澄ましている者への多大な影響は無視ということなのでしょう。

認可されるまでに、総務省のパブリックコメント募集、度重なる公聴会等もあったようですが、結局「骨抜き、あいまいな」技術基準、規制値で認可ということになってしまいました。
関連業界等、PLC推進派に押し切られた格好ですね。もちろん、その影で相当な「カネ」が動いただろうということも、想像できます。

この、PLCのおかげで短波帯は「死滅」するとまでいう人もいます。
装置単体での不要輻射は現在存在するノイズレベル以下にする・・・、というようなあいまいな基準、しかし数が増えれば相当なレベルになるでしょう。はた、不正に改造(高出力、高速化=輻射ノイズも劇的に増える)する人も必ず出てくるでしょう。

実に、由々しき問題です。

今のところ「屋内での利用に限る」となっていますが、既存の屋内配線(元々は50/60HzのAC100/200Vの配電だけを考えて,壁の中や天井裏に配線されているもの)に信号を乗せる限り、家の屋内配線全体が「広帯域妨害電波送信アンテナ」と化してしまいます。
分電盤、ブレーカ、電力メータ等は高周波の通過特性が悪いからそこから外には出ないだろうという考えなのかも知れませんが、一部は漏れ出て引き込み口から電柱までの電線も同様に、不要電波送信アンテナになる可能性も充分に有り得ます。

「屋内配線及び機器の電源コードはすべてシールド線を使う」若しくは「完全にシールドされた家屋(ありえないですけれど、総金属製の壁若しくは金網で覆われ、それらがアースに接続された家」の中で使用し、更に「分電盤あるいは屋外引き込み口のところに50/60Hzの交流電力以外は通さないフィルタを設置する」条件であれば、何ら問題は起きない事なのですが、既存の配線、家屋、配電盤等を使用する限りそうではありません。

短波帯遠距離無線通信の世界では、S/N比が僅か 3db上っただけで、「聞こえるか聞こえないか」つまりゼロか100かという事は良くある事です。

もちろん元々の信号レベルが+20dbのところでS/N比が3db悪化しても殆ど変わり無く受信できます。 しかし、信号レベルがギリギリ 0dbとか -3dbとかのところでは大きな違いが出て来てしまいます。 ところが、このPLC装置の規制値っていうのは +10dbとか、その辺のところで規制してるわけです。
(上記の具体的数値は、判りやすく説明するため一例を上げたもので実際とは異なります)

一般の人には理解し難いかも知れませんが、私を含めて一部のアマチュア無線家や、遠距離短波放送受信者、宇宙電波研究者等は、「安定して通信出来ることを前提に設計、確立された通信回線」では、不可能なことにチャレンジすることに意義、楽しみを見いだしています。
ただ単に、目的を達成するだけでしたら、世界中に張り巡らせられた電話回線やインターネット回線を使って通話をしたり、インターネットラジオで海外の放送を聴いたり、宇宙空間に打ち上げた天体観測設備を使って観測をするといったようなことで済むわけですが、そういう事ではありません。

数db、あるいはそれ以下の改善を図るために、何年もの時間をかけ、また人によっては数百万もの金をかけ、少しずつ設備、アンテナの改良等を行って来ていたのが、一気に10db(あるいは、それ以上になる場合もあるでしょう)のノイズ増加は我慢しろといわれたら、たまったものではありません。

表向きは、このPLC機器を認可するにあたって、既存の無線通信に著しい妨害、障害を与えるときは使用停止させる事が出来ると総務省はいっていますが、あちこちで使われ出したとしたら使用者の特定は困難であろうし、もし特定できて報告したところで個別に使用差し止め処分などという事は、実際には出来ないのでは?と思われます。

一部の趣味人の戯言ととる方もおいででしょうが、それは立派な道路、クルマ、ヘリコプタ、飛行機、大型船・・・、何でも有るのに、わざわざ凍えそうな寒さの中歩いて山に登ったり、鮫に食われそうな海峡を泳いで渡ったり、波にもまれたらひっくり返りそうなちっぽけなヨットで世界一周したり、疲れるのにわざわざ40数キロも全力で走ったりする人がいるのと同じよう、飯の種にもならん、くだらん事に精力傾けている人って、どの世界にもいるのも事実です。

今後、どのようにノイズ環境が変化するのか、そして悪化した場合はどのような対策が取られるのか、今のところは見守って行くしか無いのですが。

あちこちで議論もされているようですので、興味のある方はご覧になってください。